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2011年9月27日火曜日

米国特許「先願主義」への転換と、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP:Trans-Pacific Partnership、またはTrans- Pacific Strategic Economic Partnership Agreement)の弁理士業/特許事務所にもたらす影響(一つの私見)

米国特許「先願主義」への転換と、環太平洋戦略的経済連携協定(TPPTrans-Pacific Partnership、またはTrans- Pacific Strategic Economic Partnership Agreement)の弁理士業/特許事務所にもたらす影響(一つの私見)

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『オバマ米大統領は16日、米特許法の改正法案に署名、同法が成立した。1952年以来の抜本的な改正で、先に発明した人に特許を与える「先発明主義」から、出願した日を優先する「先願主義」へと制度がかわる。2013年春から適用される見通しだ。』(asahi.com 20110916日)

『米国や豪州など9か国による環太平洋経済連携協定(TPP)の第8回交渉会合が15日、10日間の日程を終えて閉幕した。閉幕後の記者会見で、ベトナムのチャン・クオック・カイン首席交渉官(商工省副大臣)は、「日本が、11月の首脳会議後に参加するのには少し問題がある」と述べた。「各国はすでに本質的な交渉を行っている」ため、大枠合意後に日本が加わった場合、「交渉の経緯を一から説明するのは難しい」と指摘した。その上で同交渉官は、「野田政権から、何か情報を得られると期待している」と述べ、日本が早期に意思表示することを促した。』((読売新聞) 20110916日)

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この2つのニュースは、関連がないと思われるかもしれない。

前者については、先発明主義を採らない他国の特許制度との国際ハーモの観点(将来的には国際的な特許審査一元化の布石)、発明日の特定や他人との発明日の前後を争う抵触審判に要する時間と金を節約できる点、権利の安定性の観点、個人やベンチャー企業のように資力をもたない者が発明の着想を以って企業の出願した発明に徒にチャレンジすることを排除する点(パテントトロールなどの悪用例含む)、利用可能性に乏しい発明まで審査し特許を与えることが非自明性など特許要件の基準を混乱させる要因となる点、米国特許商標局の審査待出願件数の削減による審査の迅速化、早期権利化/市場化、などの観点から米国内の企業からかねてより強く要望されていた制度改革である。
この「先願主義」への転換は、米国企業からは上述の観点から歓迎されているが、元々、「先願主義」を採用している国からも、発明日という米国特許権者にとって圧倒的に有利な要件がなくなる点から歓迎されるものである。

また、特許制度上の国際ハーモの唯一最大の障壁であった米国の先発明主義がなくなったことで、欧州特許のような「一審査・広域保護」という世界特許制度への布石となることは間違いないだろう。このことによって、各国毎に手続費用がネックになっていた企業規模間の所謂「知財デバイド」は解消されるとの見方が多い。

「先願主義」への転換によって、国際的には「知財デバイド」は解消されるであろう。しかし、米国内においては、先発明主義を捨てたことによって、特許制度そのものが、資力と人力(弁護士・弁理士)に困らない(大)企業の為のものになり、それらのない個人やベンチャー企業の着想が先発明として保護されなくなるとの懸念がある。

オバマが署名した米特許法の改正法案と併せて、特許出願費用などのガバメントフィーの値上げも予定されているので、特許出願件数も大きく落ち込むことが予想される。そうなると、所謂「マチ弁」的な弁護士・弁理士の仕事が減ることになる。「一審査・広域保護」という世界特許制度に将来移行するとなると、なおさら、出願から審査にかかるプロセキューションの量は減ることになり、プロセキューションを主たる業務とする士業は経営が難しくなるだろう。この点は、欧州特許条約加盟国内での、ドイツ・フランス・英国とその他の国と間の特許事務所の数とその業務内容を比較すれば歴然である(前者は欧州特許出願~審査・登録~指定国としての業務をワンストップで行うが、後者は指定国としての業務しかないのが実態である)。

企業側でも費用削減の観点から、プロセキューションにかかる手間と費用を大幅に削減し、特許後の訴訟やライセンス管理にヒトとカネを重点的に充てるようになってきた。前掲の私のブログ記事でも述べた通り、この傾向はプロセキューション主体の特許事務所やブティックファームがここ数年減少する一方、企業法務に特化した法律事務所の増加していることからも見てとれる。企業法務のフィールドとそこでのスキルを持ち合わせない弁護士や弁理士は淘汰されているのかもしれない。その周辺でビジネス(翻訳・調査業務など)を行っている者も同様だろう。

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後者については、
先にブログでも引用したが、
4カ国で始めたTPP合意書では第12章でサービスから金融と航空を除外しているが、方向性をうたう第1章では金融を含むすべての領域の自由化を主張し、合意分野の拡大を奨励している。(中略)TPPに参加すれば、農産物だけでなく、近い将来、金融、医療、法律などのサービスも意に反して輸入増加せざるをえなくなる。これまでは「要望」だったものが法的拘束力のある「協定」となるのだ。(産経ニュース【今日の突破口】ジャーナリスト・東谷暁 ちょっと待てTPP 2011.1.5から抜粋)』
サービスに関しては、サービス貿易(第12章)として、サービスの越境、サービス消費者の越境、商業拠点、サービス提供者の越境といったモード規定がある。GATS(サービス貿易一般協定)に準拠している。知的財産権(協定第10章)の範囲はTRIPs協定とその他の知的財産権に関する多国間協定での権利と義務を踏襲するものだが、知的財産権に関連するビジネス(サービス)に関しては、自由化の対象となる。

TPPへ参加するか否かの表明を未だ日本政府は行っていない。しかし、米国がTPPを通じて日本に求めるものは、士業での自由化(自由化を阻む障壁の排除)に至るのではないかと懸念する声が多い。

近年の弁護士法改正や裁判員法などの司法制度改革は穿った見方をすれば、将来の、士業(特に弁護士)の対米自由化による、米国型の訴訟社会(訴訟産業)を先見してのことかもしれない。

特許庁業務に関しても、士業(弁理士)の対米自由化に伴い、自由化の障壁となる行政手続・調査/審査の一元化・標準化が一段と進み、英語での手続を認めることになるかもしれない。料金表に基づいた手続管理と翻訳サービスを主たる業務としている従来型の特許事務所にとっては価格競争など厳しい経営環境が想定される。この中で、特許事務所の二極化、即ち、従来型の特許事務所と、いわゆる渉外法律事務所(TPP下では外資系法律事務所参入)に二極化していくことも考えられる。TPPで米国が日本に持ち込むかもしれない米国型のビジネスフィールド(特にM&A等、企業法務でのビジネス)を持たない従来型の特許事務所は、そのようなフィールドを持つ法律事務所と比較して収益性が悪くなり、個人経営の特許事務所同士の統合又は法律事務所への統廃合が進むかもしれない。

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以上の点から、米国が内国民に有利であった「先発明主義」を放棄し「先願主義」への転換を特許法改正にて明確にしたことは、特許制度を個人の発明家から大企業の利用に特化させ、2001年の同時多発テロを境にして、プロセキューション主体の事務所と、企業法務やリティゲーションに業務を特化させた事務所の二極化のうちの、後者に特許ビジネスの将来を展望したことに他ならないと考える。
また、「先発明主義」という「障壁の排除」をTPPでの日本を視野に入れて予め行い、その先にTPPを通じて日本に対して、士業(弁理士/弁護士)の自由化(自由化を阻む障壁の排除)を求める伏線ではないかとも考える。「一審査・広域保護」という世界特許制度への布石としても「先発明主義」との決別は必然だった。

いずれにせよ、TPPは日本の従前の事前規制型社会を、規制緩和によって米国型の事後紛争解決型社会に変換させることになる。事前規制型の我が国の特許制度も世界特許制度への移行が迫られ、特許後の裁判所での争いに重きを置くことになるのかもしれない。
そうなれば、米国型のビジネスフィールドを持ち合わせていない我が国の弁理士および特許事務所の業務は大きな影響を受ける可能性がある。弁理士側の訴訟代理業務も、将来は弁護士を主体とした法律事務所に取られていくかもしれない。事実、法律事務所について言えば、我が国で外資系の法律事務所の数が年々増加していることも、自由化の先のビジネスチャンスを考えてのこととされる。法律事務所のいわゆる「総合化」、ワンストップ・サービス提供、M&A等、企業法務の業務増加などは、外資系法律事務所に限らず、日本の大手法律事務所間でもみられる傾向であり(四大法律事務所による寡占化)、法律事務所の側から知的財産権に関連するサービスやビジネスを「総合化」しようとする傾向はTPP参加によって一気に加速するものと考えられる。

TPPでの米国でのビジネスチャンスを我が国の弁理士に期待するのは無理がある。TPPの参加国で日本語のプライオリティは相対的に低下し、英語での市場開放やパブリシティが参加国間で共通となるだろう。英語という壁と米国型の事後紛争解決型社会での経験の無さは、我が国ではおそらく一握りの大手法律事務所にしかチャンスをもたらさないだろう。それだけ厳しい見方も先々しておかなければならないようだ。

以上

R. Enomori

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