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2011年2月8日火曜日

環太平洋連携協定(TPP:Trans-Pacific Partnership)を特許事務所なりに考える

『環太平洋戦略的経済連携協定(TPPTrans-Pacific Partnership、またはTrans-Pacific Strategic Economic Partnership Agreement)は、元々20065月にシンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランドの4カ国加盟で発効した経済連携協定。201010月よりアメリカ主導の下に急速に推し進められる事となり、TPPの転換点と見られ参加国間で協議を行い2011年のAPECまでの妥結を目標にしている。当初TPP参加に積極的であった韓国であったが、その後これまでどおりFTA交渉を進めていくとしTPPには不参加を表明している。中国は関心を示し情報収集などを行っていたもののその後の判断で参加しない事を明らかにした。交渉・締結国に日本を加えた10カ国のGDPを比較すると、その9割以上を日米2カ国が占めるため、実質は日米FTAだとの見方もある。(Wikipedia抜粋)』

『日本は自由貿易協定(FTA)の締結が遅れていると喧伝(けんでん)されてきた。しかし、自由貿易推進について日本は、先進国とは世界貿易機関(WTO)の枠組みで、途上国とは知的財産権などを加えたFTAである経済連携協定(EPA)で交渉するといった、それなりの戦略性のある姿勢で臨んできたといえる。(中略)TPPの対象となるのは農業だけではない。米国はWTOにおいてもサービスの貿易にかんする一般協定(GATS)に力を入れて、金融、医療、法律といった分野のサービスの輸出を熱心に追求してきた。それは、米国が締結したFTAや地域協定を見てもあきらかだ。4カ国で始めたTPP合意書では第12章でサービスから金融と航空を除外しているが、方向性をうたう第1章では金融を含むすべての領域の自由化を主張し、合意分野の拡大を奨励している。(中略)TPPに参加すれば、農産物だけでなく、近い将来、金融、医療、法律などのサービスも意に反して輸入増加せざるをえなくなる。米韓FTAを見れば分かるように、簡易保険のさらなる市場開放も強いられる。これまでは「要望」だったものが法的拘束力のある「協定」となるのだ。(産経ニュース【今日の突破口】ジャーナリスト・東谷暁 ちょっと待てTPP 2011.1.5から抜粋)』
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TPP協定(Agreement)では、農産物や鉄鋼などの分野に加え、「金融サービス」「電子商取引」「投資」「労働」など幅広い分野での自由化の検討がなされる予定です。日本を含め交渉参加国の顔ぶれを見る限り、実質的には日米間の経済協定(日米FTA)の意味合いが強いものと一般に理解されています。

TPPでは農産物関連の報道は多いのですが、例外品目がなく100%自由化実現を目標とする点を注視する必要があります。サービスに関しては、サービス貿易(第12章)として、サービスの越境、サービス消費者の越境、商業拠点、サービス提供者の越境といったモード規定があります。GATS(サービス貿易一般協定)に準拠しています。知的財産権(協定第10章)の範囲はTRIPs協定とその他の知的財産権に関する多国間協定での権利と義務を踏襲するものですが、知的財産権に関連するビジネス(サービス)に関しては、自由化の対象です。

サービス業、特にわが国の士業がTPP参加によってどのような影響を受けるのかが気になるところです。米国がTPPを通じて日本に求めるものは、士業での自由化(自由化を阻む障壁の排除)ということになるでしょう。士業、特に法律事務所について言えば、我が国で外資系の法律事務所の数が年々増加していることも、自由化の先のビジネスチャンスを考えてのことかもしれません。法律事務所のいわゆる「総合化」、ワンストップ・サービス提供、M&A等、企業法務の業務増加などは、外資系法律事務所に限らず、日本の大手法律事務所間でもみられる傾向であり(四大法律事務所による寡占化)、法律事務所の側から知的財産権に関連するサービスやビジネスを「総合化」しようとする傾向はTPP参加によって一気に加速するものと考えられます。


近年の弁護士法改正や裁判員法などの司法制度改革は穿った見方をすれば、将来の、士業(特に弁護士)の対米自由化による、米国型の訴訟社会(訴訟産業)を先見してのことかもしれません。手続に使用する言語として英語を認めざるを得なくなるなど、TPPでは相対的に日本語のプライオリティーが低下することは避けられないでしょう。また、民間企業、行政・政府機関の英語でのパブリシティが求められることでしょう。コスト、時間、手間のかからない機械(自動)翻訳の必要性とともに、前項ブログで述べた機械(自動)翻訳などのコンピュータ処理に適合した「産業日本語」の検討および導入が本格化するかもしれません。

特許庁業務に関しても、士業(弁理士)の対米自由化に伴い、自由化の障壁となる行政手続・調査/審査の一元化・標準化が一段と進み、英語での手続を認めることになるかもしれません。料金表に基づいた手続管理と翻訳サービスを主たる業務としている従来型の特許事務所にとっては価格競争など厳しい経営環境が想定されます。この中で、特許事務所の二極化、即ち、従来型の特許事務所と、いわゆる渉外法律事務所(TPP下では外資系法律事務所参入)に二極化していくことも考えられます。TPPで米国が日本に持ち込むかもしれない米国型のビジネスフィールド(特にM&A等、企業法務でのビジネス)を持たない従来型の特許事務所は、そのようなフィールドを持つ法律事務所と比較して収益性が悪くなり、個人経営の特許事務所同士の統合又は法律事務所への統廃合が進むかもしれません。米国では2001年の同時多発テロを境にして、幅広い領域の業務を扱う事務所(ブティックファーム)と、リティゲーションに業務を特化させた事務所の二極化が進みました。ところが、前者のブティックファームはここ数年で急速に消えています(例えば、Brobeck, Phleger & Harrison, Pennie & Edmonds, Morgan & Finnegan, Lyon & Lyon, Fish & Neave, Darby & Darbyなどの著名事務所)。収益性の悪いプロセキューションのワークを抱え込んだが為の結果であり、実際に企業サイドでのプロセキューション・ワーク(調査・ドラフト)のインドへのアウトソーシング化が進み、プロセキューション専門のアトーニーの業務が減ったことも要因と指摘する向きもあります(IPWatchdog記事 The Strange Case of the Vanishing Patent Boutiques” - 2010/04/06)。リティゲーションの新たな市場として、米国がTPPを介して日本を見ているとしても不思議ではありません。

日本もTPPによって米国とビジネス環境が同じになれば、同様の状況になる可能性も考えられます。料金表に基づいた手続管理と翻訳サービスを主たる業務としている従来型の特許事務所にとっては大きな試練となるかもしれません。

特許事務所なりに、TPPのもたらすものを真剣に考える時期が到来しているようです。

by R. Enomori

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