特許法第69 条第1 項の「試験又は研究」の射程(学説)
…「試験又は研究」の範囲をその対象及び目的により区分し、「技術の進歩」を目的とする行為に限定すべきとする説
「技術の進歩」を目的とする行為とは、
特許性調査、機能調査、改良・発展を目的とする試験(染野啓子「試験・研究における特許発明の実施(I)」AIPPI, Vol. 33, No. 3(1988年)5 頁)
→ 後発医薬品の製造承認を得るために他者の特許発明を実施して行う各種の試験行為は、第69 条第1 項の「試験又は研究」の要件たる「技術の進歩」を目的とするとは言えないため、第69 条第1 項の「試験又は研究」には当たらないとする否定説の根拠
(以下判例で後に否定された学説では、スクリーニング方法等のリサーチツール特許の実施についても、通説の解釈に従い、特許発明それ自体を研究対象とする場合を除き、第69 条第1 項の適用は否定される可能性が高いと解されている。
(片山英二「バイオ特許の権利行使-スクリーニング方法特許にかかわる問題とこれまでのバイオ特許訴訟-」知的財産研究所編『バイオテクノロジーの進歩と特許』(東京:雄松堂出版、2002 年)115-116 頁)
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特許法第69 条第1 項の「試験又は研究」の射程(判例)
(最高裁小二法廷平成 11 年4 月16 日判決(平成10(受)153)(民集53 巻4 号627 頁))
…「試験又は研究」の解釈を行わず、
特許権による保護の趣旨に拠って判断
即ち、「特許法上、右試験が特許法第69 条1 項にいう「試験」に当たらないと解し、特許権存続期間中は右生産等を行えないものとすると、特許権の存続期間が終了した後も、なお相当の期間、第三者が当該発明を自由に利用し得ない結果となる(特許権の存続期間を相当期間延長するのと同様の結果)。この結果は、前示特許制度の根幹に反するものというべきである。」
→ 後発医薬品の製造承認を得るために他者の特許発明を実施して行う各種の試験行為は第69 条第1 項の「試験又は研究」には当たる。
なお、当該最高裁判決は薬事法による規制を前提としたものであり、その射程は薬事法第14 条第1 項の承認を要する医薬品、医薬部外品、厚生労働大臣の指定する成分を有する化粧品又は医療用具のほか、農薬取締法第2 条第1 項の登録を必要とする農薬に関する特許発明にも及ぶものと解される。
特許発明のうち延長が認められるのは、
「政令で定める処分」と重複する範囲
「政令で定める処分」が薬事法所定の承認である場合,「政令で定める処分」の対象となった「物」とは,当該承認により与えられた医薬品の「成分」,「分量」及び「構造」によって特定された「物」を意味するものというべきである。」(H20(行ケ)10458)
即ち、延長登録が認められる薬事法による処分の対象項目は「効能」、「効果」以外には、「成分」の他「分量」及び「構造」。
→ 厚生労働大臣の指定する成分を有する化粧品又は医療用具に及ぶか?
「政令で定める処分」の対象に元々なっておらず、重複する範囲がないので及ばない。
つまり、
特許法第69 条第1 項の「試験又は研究」の射程では
厚生労働大臣の指定する成分を有する化粧品又は医療用具に及ぶ(判例)が、
特許権延長登録が認められる対象としては
厚生労働大臣の指定する成分を有する化粧品又は医療用具に及ばない。
以上
by R. Enomori
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